最後の巡礼

一年に一度、秋になると訪れる場所があります。
独立開業する前に勤めていた会社の工場です。すでに稼働を停止しているので、正確には元勤務先の工場跡地です。

なぜ秋なのか。
特に理由はないのですが、数年前にふと思い立って訪れたのが秋だったので、なんとなくこの時季になっていました。

なぜここにくるようになったのか。
最初は、近くにきたことだし時間もあるからちょっと寄ってみようか、程度の感じでした。
車で約20分ほど、息抜きのドライブがてらに。
だけど、訪れてみて、なんだか複雑な気持ちになったのです。
木も雑草も伸び放題、かつてお世話になった場所がだんだん荒廃していく姿を見るのはつらいけど、かつての関係者で今ここにくる人はもういないのだろうな、とか、
ああ、ここにいたころの自分は本当にダメ人間だったな、とか。

いつの間にか、とても懐かしい感謝すべき場所、謙虚に初心に戻れる場所になっていました。

当時の私は、本当に頭でっかちで威圧的で口ばっかりの、何もできない社員でした。
何もできないくせに、上司とはぶつかるわ、休憩と称して仕事はサボるわ、そして会社の悪口を内外で言いたい放題で、本当に勘違い野郎でした。今でも思い出すと恥ずかしくて仕方ないし、当時の私を知る人に会うのも本当は恥ずかしくて仕方ありません。
もっと学べることがたくさんあったはずなのに。どうしてもこの会社に入りたくて入ったはずなのに。
会社には10年、この工場には6年ちょっと在籍しましたが、いろんな言い訳を盾にして逃げるように退職してしまいました。
あれからもう20年近くが経ちましたが、いまだに後悔することがたくさんあります。

「で、結局おまえは何ができるわけ?」
当時ひそかに憧れていた先輩に言われた一言は、今でも鮮明に覚えています。
それに答えたくて、独立開業後は自分なりにがんばってきたつもりですが、結局何ができるようになったのか?はまったく自信がありません。
その後そのかたに一度だけお会いする機会があって、緊張しまくりな私に「もっと自信もってやればいいじゃん」と声をかけてくれたときは、不思議な安堵とうれしさを感じたものです。

そんな苦い思い出のつまったこの場に今年もやってきましたが、その風景は激変していました。
大規模解体改修中の工場、行きかう工事車両や現場作業員、そして、某企業の新工場になるという看板。

来年には、まったく新しい工場として、まったく新しい人たちがここで働くことになるのでしょう。
私の巡礼も、どうやら今回で最後になりそうです。
訪れることはもうないですが、ここで毎年感じていたことは、ずっと大切にしていきたいと思います。

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